【全33回フライト徹底解説!】ブルーオリジン社ニューシェパードの軌跡 ~宇宙旅行を現実にしたロケットの全記録 (2025/7) ~

NS-27ミッションに向けて準備中のロケット『ニューシェパード』 © Blue Origin

「宇宙旅行」。それはかつてSF映画の中だけの夢物語でした。しかし今、その夢は現実のものとなりつつあります。そして、その最前線を走るのが、宇宙企業「ブルーオリジン(Blue Origin)」です。Amazon創業者ジェフ・ベゾスが率いています。

同社が開発した再使用型ロケット「ニューシェパード(New Shepard)」は、すでに多くの人々を宇宙の入り口へと誘っています。

そこでこの記事では、ニューシェパードが刻んできた歴史を徹底解説します。2012年の最初のテストから、2025年6月の最新フライトまで。その全33回の飛行記録を、公式情報に基づき、余すところなくお伝えします。息をのむような挑戦と、未来への展望を一緒に辿っていきましょう!

🚀 ニューシェパードってどんなロケット?

まず本題に入る前に、主役であるニューシェパードを簡単にご紹介します。

  • 構成: 乗員が乗る「クルーカプセル」と、打ち上げ用の「ブースター」で構成されます。
  • 飛行の仕組み:
    1. まず垂直に打ち上げられます。BE-3エンジンが力強く機体を押し上げます。
    2. 約2分半後、高度が上がったところでカプセルが分離します。
    3. カプセルはさらに上昇し、宇宙の境界線 高度100km(カーマン・ライン)前後へ到達します。
    4. 乗客はここで数分間の夢のような無重力体験をします。漆黒の宇宙に浮かぶ青い地球をその目に焼き付けるのです。
    5. 一方、ブースターは地上へ降下。見事な垂直着陸を決めます。
    6. カプセルもパラシュートで降下し、最後は逆噴射でソフトに着地します。

このように「再使用」技術こそが、宇宙へのコストを劇的に下げる鍵なのです。

第1章:黎明期 ~試練と成功の軌跡(2012–2018)~

どんな偉大な冒険も、地道な一歩から始まります。ニューシェパードが有人宇宙飛行を実現するまでには、数々の挑戦がありました。それでは、それを乗り越えるための厳しい試験飛行の歴史を見ていきましょう。

すべての始まりと歴史的快挙

【最初のテスト】パッド脱出試験 (2012年10月22日)
これは記念すべき最初の公開テストです。ただし、打ち上げではありません。「もし発射台でブースターに問題が起きたら?」という最悪の事態を想定した「パッド脱出試験」でした。カプセル自身のモーターを噴射し、乗員を安全に避難させるテストです。カプセルは高度約703mまで上昇し、無事に着地。安全への強いこだわりがうかがえます。

開発初期のテスト飛行で打ち上げられるNew Shepard(2015年4月29日)
2015年4月29日、ブルーオリジン社のニューシェパードが初の開発テスト飛行としてテキサス州西部から打ち上げられた © Blue Origin

【ほろ苦いデビュー】M1 (2015年4月29日)
その後、新型ブースターとカプセルで、初の本格的な垂直離着陸試験に挑みました。打ち上げは成功。カプセルは高度約93.7kmに到達し、正常に分離・着陸しました。しかし、ブースターは油圧系のトラブルで失われました。それでも、カプセルの安全な帰還は大きな一歩でした。

再利用型ロケットのニューシェパードがテキサス州に垂直着陸した瞬間
2015年11月23日、ニューシェパードが世界で初めて垂直着陸に成功。完全再利用型ロケットとして歴史を刻んだ瞬間 © Blue Origin

【歴史的快挙!】M2 (2015年11月23日)
そして、前回の雪辱を果たす2回目の飛行。ここで、宇宙開発の歴史に新たな1ページが刻まれます。ついにニューシェパードのブースターが史上初の垂直着陸に成功したのです! まさに再使用ロケット時代の到来を世界に高らかに宣言した瞬間でした。

再使用性の証明と徹底した安全検証

【証明された再使用】M3 (2016年1月22日)
「Launch, Land, Repeat.(打ち上げ、着陸、繰り返し)」がスローガンでした。というのも、M2で歴史的着陸を成し遂げたまさに同じブースターを再飛行させました。そして再び完璧な打ち上げと着陸に成功。再使用技術が本物であることを証明しました。

【科学の翼】M4 (2016年4月2日)
ブースターの4回目の飛行です。このフライトでは、初めて大学などの科学実験ペイロードが搭載されました。これにより、ニューシェパードが観光だけでなく、科学研究の場としても価値を持つことを示したミッションです。

【究極の安全テスト①】M5 (2016年6月19日)
「もしパラシュートが1つ開かなかったら?」という不安なシナリオを、あえて再現した試験です。3つあるメインパラシュートのうち1つを開かずに着陸。結果、カプセルは見事にソフトランディングしました。乗員の安全確保への執念を感じさせます。

【究極の安全テスト②】M6 (2016年10月5日)
さらに安全検証の総仕上げとして、「インフライト脱出試験」です。ロケットが最も大きな圧力を受ける上昇中に、カプセルの緊急脱出モーターを噴射します。カプセルはブースターから引き離され、安全に帰還しました。驚くべきことに、ブースターもまた単独で飛行を続けて着陸。この成功は開発チームに大きな自信を与えました。

次世代機と科学ミッションへの展開

【新世代の幕開け】NS-7 (2017年12月12日)
次世代ブースターと、大きな窓が特徴の新型カプセル「Crew Capsule 2.0」が初飛行しました。12件の商業・研究ペイロードを乗せ、未来の有人飛行への準備が整ったことを示しました。

NS-8ミッション前に発射台に設置されたNew Shepard(2018年4月29日)
2018年4月29日、NS-8フライトに向けて発射準備中のパッド脱出試験 © Blue Origin

【宇宙Wi-Fiの実証】NS-8, NS-9 (2018年)
ペイロードを搭載した無人飛行は続きます。例えば、NS-8では宇宙でのWi-Fi通信などを実験。また、NS-9ではさらに過酷な高高度での脱出試験を実施しました。カプセルは脱出モーターの力で高度約119kmまで到達。システムの信頼性を極限まで高めました。

第2章:宇宙への扉 ~商業・有人飛行の時代(2019年以降)~

数々の厳しい試験を乗り越え、いよいよニューシェパードは商業運用のフェーズへ。そして、その先にある有人飛行へと突入します。

商業運用への布石

【信頼性の熟成】NS-10〜NS-12 (2019年)
この年も無人での商業ペイロード飛行が続きました。NASAの実験などを次々と宇宙へ運びます。特に、ブースターの再使用回数は注目に値します。NS-12では同一機体が6回目の飛行を達成し、記録を更新。こうして着実に信頼性を積み重ねました。

【月面着陸への布石】NS-13 (2020年10月13日)
このフライトは特別でした。なぜなら、NASAの月面探査計画で使われる「精密月面着陸センサー」の実証実験が行われたからです。つまり、ニューシェパードが月を目指す壮大な計画にも貢献していることを示しました。ちなみに、このブースターは7回連続の飛行でした。

【有人飛行へ最終準備】NS-14, NS-15 (2021年)
ついに、有人飛行が目前に迫ります。NS-14では、乗員用の通信装置やシートなど、クルーカプセルの最終テストを行いました。続くNS-15では、社員が宇宙飛行士役となり、打ち上げ直前までの搭乗リハーサルを実施。これで準備は万端です。


✨歴史的瞬間!ニューシェパード 有人飛行全記録✨

そして、ついにその時が訪れます。

夢の実現!感動を呼んだ有人フライト

ニューシェパードがNS-16で初の有人飛行に挑む打ち上げシーン(2021年7月20日)
2021年7月20日、ニューシェパードが史上初の有人フライトとなるNS-16ミッションで打ち上げられた © Blue Origin

【1】NS-16 (2021年7月20日) – 初の有人飛行!
創業者ジェフ・ベゾス自身が搭乗しました。弟のマーク、82歳のパイオニア、ウォリー・ファンク、18歳の学生オリヴァー・ダーメンも一緒でした。この飛行で、ファンクは当時の最年長記録、ダーメンは最年少記録を樹立。あまりにもドラマチックな初有人飛行でした。

【2】NS-18 (2021年10月13日) – カーク船長、宇宙へ
NS-17の無人飛行後、NS-18で『スタートレック』でカーク船長を演じた俳優ウィリアム・シャトナーが搭乗。90歳で史上最高齢の宇宙飛行士となりました。

【3】NS-19 (2021年12月11日) – 初の6人フライト
アメリカ初の宇宙飛行士アラン・シェパードの長女らが搭乗。初の定員6名でのフライトを成功させました。

【4〜6】NS-20, NS-21, NS-22 (2022年)
2022年は3回の有人飛行を実施。ここでも、ニューシェパードの開発者本人、夫婦での参加、YouTubeクリエイターなどが搭乗。エジプト人・ポルトガル人として初の宇宙飛行士も誕生しました。宇宙への扉が多様な人々に開かれていることを示すフライトでした。

試練と復活の物語

【試練再び】NS-23 (2022年9月12日) – 飛行中エンジン異常と、安全性の証明
ところが、この無人飛行中、ブースターのエンジンノズルが破損。機体は失速しました。しかし、この異常を検知したカプセルの緊急脱出システムが完璧に作動。カプセルは安全に分離され、無事に地上へ帰還しました。皮肉にも、これは過去の脱出試験が正しかったことの証明です。かえってニューシェパードの安全性を世界に示す結果となりました。

【不死鳥のごとく】NS-24 (2023年12月19日) – 復帰飛行
約1年3ヶ月の調査と改善を経て、ニューシェパードは宇宙へ帰ってきました。NASAや学生実験など33ペイロードを搭載したミッションは完璧に成功。こうして、プログラムの安全性が再び確認されました。

フライトの加速と新たな記録

【7〜13】NS-25〜NS-33 (2024年〜2025年6月)
復帰後のブルーオリジンは、さらに勢いを増します。

  • NS-26では、カーマン・ラインを越えた史上最年少の女性が誕生しました。
  • 続くNS-27では、2機目の新しい有人対応カプセルがデビュー。フライト能力を増強しました。
  • さらにNS-28では科学番組ホストが搭乗し、科学教育の重要性をアピールしました。
  • その後もハイペースで有人飛行を重ねます。そしてNS-33 (2025年6月29日) のミッションで金字塔を打ち立てました。通算33回の飛行(うち13回が有人)を達成し、70人以上を無事故で宇宙へ送り届けたのです。

第3章:考察 ~ブルーオリジンが拓く宇宙の未来~

ニューシェパードの実績を振り返ると、いくつかの重要な点が見えてきます。

  1. 徹底した安全性へのこだわり
    第一に、開発初期から繰り返された脱出試験は、決して無駄ではありませんでした。NS-23の事故は、その安全哲学が正しかったことの何よりの証明です。
  2. 再使用技術の確立
    第二に、同じブースターが7回以上も飛行しました。これは高い耐久性と信頼性を示します。そして、この技術が宇宙旅行のコストを下げ、頻繁なフライトを可能にしています。
  3. 科学への貢献
    第三に、観光だけではありません。NASAの月探査技術の実証や、様々な科学実験の場を提供しています。つまり、宇宙開発全体に貢献しているのです。

2025年6月現在、ニューシェパードはサブオービタル宇宙旅行市場のリーダーです。その地位を不動のものにしています。今後、新しいカプセルの導入で、フライトの頻度はさらに上がるでしょう。より多くの人が、そしてより多様な科学ミッションが宇宙へ向かうはずです。

ジェフ・ベゾスが抱いた壮大な夢。それは着実な一歩の積み重ねによって、今や70人以上が見た現実の光景となりました。

次に宇宙へ行くのは、あなたかもしれません。ブルーオリジンとニューシェパードの挑戦から、これからも目が離せませんね!


夢の源泉へ:公式サイトへの羅針盤

➡️[ブルー・オリジンBlue Origin) 公式サイトへ]

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