dearMoon & Polaris Program

月への旅、そしてその先へ (dearMoon & ポラリス計画)

夢は、一度終わった。だからこそ、新たな夢が始まる。

宇宙旅行の歴史において、これほど世界中の注目を集め、そして多くの人々に夢と失望を与えたプロジェクトはなかったかもしれません。日本人実業家・前澤友作氏が企画した民間月周回プロジェクト「dearMoon」。そして、その夢の翼となるはずだった、スペースX社の巨大宇宙船「スターシップ」。

このページは、dearMoonがなぜ生まれ、そしてなぜ中止に至ったのか、その全貌を記録するとともに、その挑戦の魂を受け継ぎ、人類をさらに遠くへ運ぼうとしている新たな民間宇宙飛行計画「ポラリス計画」の最前線を追うためのものです。

一つの夢の終わりは、常に、新しい夢の始まりに過ぎないのです。


物語の始まり:dearMoon – 芸術家たちと月へ

プロジェクトの概要と目的

2018年9月、前澤友作氏はスペースX社と契約し、世界初の民間人による月周回旅行計画「dearMoon」を発表しました。その目的は、単に月へ行くだけではありませんでした。世界中から選ばれたアーティストたちを招待し、約6日間の月周回旅行で得たインスピレーションを基に、新たな創造活動を生み出してもらう。芸術の力で、世界を平和にする――それが、このプロジェクトに込められた壮大なビジョンでした。

選ばれし8人のクルー

2022年12月、世界100万件以上の応募から、国籍も職業も多様な8名のクルーと2名のバックアップが選出されました。DJ、ラッパー、写真家、映画監督、ダンサー…。彼らは、人類の代表として、月からのインスピレーションを地球に持ち帰るはずでした。

区分名前背景/職業
主要クルーSteve AokiアメリカのDJ・音楽プロデューサー
Choi Seung Hyun (T.O.P)韓国のラッパー・俳優
Yemi A.D.チェコの振付師・実業家
Rhiannon Adamアイルランド生まれの写真家
Tim Dodd米国の科学コミュニケーター
Karim Iliyaレバノン系米国人の写真家
Brendan Hall米国のドキュメンタリー映画監督
Dev Joshiインドの俳優
バックアップKaitlyn Farrington米国のスノーボード選手
Miyu日本のダンサー

夢の蹉跌:なぜdearMoonは中止されたのか

当初2023年の打ち上げを目指したdearMoon。しかし、その翼となるはずだったスペースXの「スターシップ」の開発は、困難を極めました。

スターシップ開発の現状

スターシップは、2025年5月までに9回の試験飛行を行いましたが、成功と呼べるのはそのうち4回のみ。特に、機体の上段部分を失う失敗が続き、月周回飛行に必要な安全性と信頼性を確保するには、まだ時間が必要なことが明らかになりました。フロリダに新設された発射台からの打ち上げも2025年末以降になる見込みで、技術的なハードルは依然として高いままでした。

2024年6月1日、突然の終焉

そして、運命の日。dearMoon公式サイトは、プロジェクトの正式な中止を発表しました。

「当初の契約は2023年の打ち上げを前提としていたが、その実現が不可能となり、近い将来の明確なスケジュールも示せない。未来を計画できず、乗員を待たせ続けることが申し訳ない」

前澤氏の声明は、夢の大きさと、それを支える技術開発の現実との間で苦悩した末の、苦渋の決断であったことを物語っていました。選ばれたクルーからは、失望の声と共に、「待ち続けたかった」という悲痛な思いも聞かれました。

dearMoonは、最終的に宇宙へ飛び立つことはありませんでした。しかし、このプロジェクトが世界中に与えた「民間人が月へ行く」という鮮烈な夢とインスピレーションは、決して消えることはありません。


新たな挑戦:ポラリス計画 – 民間宇宙飛行の限界を押し広げる

dearMoonが夢見た未来は、形を変えて、今も進んでいます。それが、同じくスペースXが推進する民間宇宙飛行シリーズ「ポラリス計画」です。

ポラリス・ドーンの歴史的成功

その第一弾「ポラリス・ドーン」は、2024年9月10日に打ち上げられ、5日間にわたるミッションを完遂し、9月15日に無事帰還しました。このミッションが歴史的だったのは、以下の点を達成したからです。

  • **史上初の民間人による宇宙遊泳(船外活動)**に成功。
  • 地球ヴァン・アレン帯を通過し、アポロ計画以来となる高高度軌道に到達。
  • スターリンク衛星とのレーザー通信実験に成功。

これは、民間宇宙飛行が単なる「旅行」ではなく、科学技術のフロンティアを押し広げる「探査」の領域に足を踏み入れたことを示す、重大な一歩です。

ポラリス計画の未来 – 次は、スターシップで

ポラリス計画の第2、第3ミッションの詳細はまだ未定ですが、公式サイトでは**「第3ミッションで、スターシップ初の有人飛行を行う」**と明記されています。

dearMoonが果たせなかった夢、すなわち**「民間人を乗せたスターシップの飛行」**は、このポラリス計画に引き継がれたのです。その具体的な日程はまだ公表されていませんが、スターシップの開発が順調に進めば、2026年中にもその歴史的瞬間が訪れるかもしれません。


まとめ – 夢は連鎖し、未来は続く

dearMoonの中止は、多くの人々にとって大きな失望でした。しかし、それは宇宙開発の現実、すなわち、壮大な夢の実現には、乗り越えるべき巨大な技術的課題と時間が必要であることを、私たちに教えてくれました。

そして、その挑戦のバトンは、確実に「ポラリス計画」へと渡されています。

  • dearMoonが示したのは、「月へ行きたい」という人類共通の情熱。
  • ポラリス計画が示しているのは、その情熱を実現するための、着実で力強い技術の進歩。

一つのプロジェクトは終わりました。しかし、人類が月やその先を目指す物語は、決して終わりません。次にスターシップが打ち上がる時、その輝きの中に、dearMoonのクルーたちが夢見た光景が、きっと重なって見えるはずです。


夢の源泉へ:公式サイトへの羅針盤

➡️ [dearMoon プロジェクト公式サイト(記録)]
➡️ [Polaris Program 公式サイトへ]
➡️ [SpaceX 公式サイトへ]

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