いよいよ月へ、そして宇宙ホテルへ~宇宙旅行の未来を支えるNASAの最前線(2025年7月版)~

「宇宙旅行」――
かつては選ばれた宇宙飛行士だけが実現できる夢でした。

しかし今、その夢は、いよいよ私たち民間人の手にも届こうとしています。
しかも、月を周回し、宇宙ホテルに宿泊する時代が、もう目の前まで来ているのです。

そしてその未来を支えているのが、NASA。
国家の探査機関でありながら、民間旅行の可能性を広げる主役でもあるのです。

Orbital Reef の大型インフレータブル LIFE ハビタットのバースト試験模型のデジタルレンダリング
宇宙居住モジュールのレンダリング画像 ©NASA/Sierra Space 提供

そこで今回は、NASAのプロジェクトから民間宇宙旅行に関わる取り組みをご紹介します。



月旅行に関係するプロジェクト

🚀月へ人類を再び:アルテミス計画

まず、最も注目すべきはアルテミス(Artemis)計画」です。
これはアポロ計画以来となる、人類を再び月面へ送る大規模プロジェクトとして始動しました。

しかも今回は、従来とは異なり、民間企業や国際パートナーとの連携を前提とした構想です。
この点が、民間宇宙旅行の発展にも大きく関わってきます。

🌍 アルテミスI:無人で月を周回し、地球へ帰還

アルテミス計画で使用されるNASAのSLSロケットが発射台で夜空を背景に待機している様子
NASAアルテミス計画のSLSロケット©NASA提供

まず最初に、2022年11月に実施された「アルテミスI」では、巨大ロケットSLSと深宇宙対応のオリオン宇宙船が無人で打ち上げられました。

その後、宇宙船は月を周回し、約25日間の飛行の末に地球へと無事帰還。
このミッションの成功により、現代の月周回技術が確かに証明されたのです。

出典:
View the Best Images from NASA’s Artemis I Mission、2022年12月21日、一次情報(NASA公式)

👩‍🚀 アルテミスII・III:いよいよ有人飛行へ

次に控える「アルテミスII」では、いよいよ4名の宇宙飛行士が月を周回します。
当初は2024年に打ち上げが予定されていましたが、現在は2026年4月へ延期されました。

続く「アルテミスIII」では、ついにアポロ17号以来の有人月面着陸が行われる予定です。
特に注目すべきは、NASA初の女性月面着陸者が誕生する見込みであることです。

出典:
More Delays: Artemis II Slips to April 2026、2024年12月5日、二次情報(SpacePolicyOnline)


🛰️ 月面着陸船(HLS)計画:スターシップとブルームーン

スペースXの月面着陸船Starship HLSがアルテミス計画で月面に着陸するレンダリング画像(NASA提供)
Starship HLS(月面着陸船)がアルテミスIIIミッションで月面に着陸する様子©NASA / SpaceX 提供

さらに注目すべきは、NASAがアルテミス計画において、月面着陸船の開発を民間企業に委ねているという点です。

とりわけ2021年には、スペースX社の「スターシップ」が最初の契約を獲得。
これはアルテミIII用に使用される予定で、契約額は約29億ドルにも上ります。

また、2022年11月には追加契約も結ばれ、スターシップはより大型化し、将来の任務にも対応可能となるよう改良が進められています。

出典:
NASA Awards SpaceX Second Contract Option、2022年11月15日、一次情報(NASA公式)

Blue Originが開発する月面着陸船Blue Moon Mark 1のレンダリング画像(NASA契約機)
月面着陸機「Blue Moon Mark 1」のコンセプトレンダリング©Blue Origin 提供

一方で、2023年5月にはブルーオリジン社も開発契約を獲得
彼らは「ブルームーン」と呼ばれる月着陸船を提案し、契約額は約34億ドルにのぼります。

この機体は、2029年のアルテミスVで使用される予定で、スターシップと並び、月面輸送の選択肢が拡充されたことは非常に大きな意義を持ちます。

出典:
NASA Selects Blue Origin as Second Artemis Lunar Lander Provider、2023年5月19日、一次情報(NASA公式)


🌑月面へ荷物を送る!CLPSがもたらす新市場

次に紹介するのは、月への荷物配送サービス「CLPS(Commercial Lunar Payload Services)」です。
科学機器やローバーなどを月面へ届けるサービスです。

NASAは、自ら着陸船をつくらず、民間企業に「月への配達」を委託します。

この仕組みが今、月の商業開発を加速させています。

🚀ファイアフライ社などが実績を重ねる

Firefly Aerospaceの月面着陸船Blue GhostがNASAのCLPSミッションで逆噴射しながら月面に降下するレンダリング画像
CLPS計画でBlue Ghostが月面へ逆噴射で降下 ©NASA / Firefly Aerospace提供

たとえば2025年には、ファイアフライ・エアロスペース社が打ち上げた「ブルーゴースト1号機」が月面に無事着陸。

NASAの科学機器を運び、14日間の観測ミッションを成功させました。

出典:
NASA Science Continues After Firefly’s First Moon Mission Concludes、2025年3月18日更新、一次情報(NASA公式)

💡輸送だけでなく、月資源探査も支援

INTUITIVE MACHINES の月着陸船 Athena が CLPS プログラムで PRIME‑1 ドリルを使い、月面で氷を掘削するレンダリング画像(NASA 提供)
CLPS プログラムによる Athena の PRIME‑1 氷掘削ミッション ©NASA / Intuitive Machines 提供

また、インテュイティブ・マシーンズ社が実施したIM-2ミッションでは、ドリルによる掘削動作実験も行われました。
これは月面での資源活用を目指す実証の一環です。

今後は通信中継衛星や裏側ミッション、ローバー展開などが予定されています。

こうした蓄積が、将来の有人月旅行や月面開発に不可欠となるでしょう。

出典:
NASA’s Lunar Drill Technology Passes Tests on the Moon、2025年4月29日、一次情報(NASA公式)


宇宙ホテルに関係するプロジェクト

🏨 宇宙ホテルの誕生へ:商業宇宙ステーション構想(CLD)

将来の宇宙旅行では、「滞在先」が欠かせません。
その役割を担うのが、商業宇宙ステーションです。

現在の国際宇宙ステーション(ISS)は2030年で退役予定。
そこでNASAは、その後継を民間に任せる方針を打ち出しました。
この計画が、CLD(Commercial Low Earth Orbit Destinations)です。

2021年、NASAは3つの企業グループを選定。
それぞれ異なる構想で、新しい宇宙拠点の開発を進めています。

  • ブルーオリジン社+シエラスペース社 →「オービタル・リーフ」
  • ナノラックス社+ロッキード社 →「スターラボ」
  • アクシオム・スペース社 →「アクシオム・ステーション」

🧱アクシオム・スペース:ISSから分離して独立へ

まずアクシオム社は、ISSにモジュールを接続し、将来的に切り離して独立運用する計画を進めています。

NASAとAxiom Space が構想する民間商業ステーション「Axiom Station」完成予想レンダリング画像
Axiom Station 完成予想レンダリング©Axiom Space / NASA 提供

この「アクシオム・ステーション」は、NASAが顧客として利用することを想定した設計です。

同社はすでに、民間宇宙飛行士をISSへ派遣済み。
その運用実績を活かし、本格的な民間宇宙拠点を目指しています。

出典:
Fourth NASA-Enabled Private Flight to Space Station Completes Safely、2025年6月15日、一次情報(NASA公式)


🛰️スターラボ:2027年に打ち上げ予定の新拠点

一方、ナノラックス社とロッキード社が開発中なのが「スターラボ」です。

宇宙空間に浮かぶ Starlab 商業宇宙ステーション(サービスモジュールと居住モジュール)レンダリング画像
Starlab 商業宇宙ステーションの完成イメージ ©Starlab Space / NASA 提供

このステーションは、2027年の打ち上げを目指しています。
最初の打ち上げで、主要構造を一括投入する予定です。

内部には4名常駐が可能な居住区を設置。
さらに「ジョージ・ワシントン・カーヴァー・サイエンス・パーク」と呼ばれる実験エリアが併設される予定です。

この施設には、バイオラボや物理実験施設、植物育成区画も含まれます。
つまり、研究と商業活動の両方に対応する空間となるのです。

加えて、ノースロップ・グラマン社が補給や拡張設備を技術支援中。
NASAと連携しながら、設計と安全基準の審査をすでに通過しています。

出典:
NASA Sees Key Progress on Starlab Commercial Space Station、2025年7月16日、一次情報(NASA公式)


🪐オービタル・リーフ:宇宙版ビジネスパークへ

そしてもう一つの注目案が、ブルーオリジン社とシエラスペース社が主導する「オービタル・リーフ」です。

Orbital Reef 宇宙ステーションの全景レンダリング。LIFE居住モジュールとサービスモジュールを備え、低軌道上に浮かぶ設計図(©Blue Origin / Sierra Space 提供)
Orbital Reef 宇宙ステーションの完成イメージ ©Blue Origin / Sierra Space 提供

この構想は、「宇宙のビジネスパーク」をコンセプトとしています。
商業活動・研究・観光をすべて受け入れる拠点となる予定です。

ブルーオリジンが中核モジュールを、シエラスペースが居住区「LIFE」モジュールを提供します。

さらに、ドリームチェイサー往還機を用いた物資輸送も行う予定です。
加えて、レッドワイヤー社やボーイング社もプロジェクトに参加しています。

運用開始は2028年以降が見込まれており、ステーションの構成は段階的に拡張される予定です。

出典:
NASA Selects Companies to Develop Commercial Destinations in Space、2021年12月2日、一次情報(NASA公式)


NASAのほかの注目プロジェクト

🧑‍🚀 宇宙はもう国家だけのものではない:ISSと商業乗員計画(CCP)

次にご紹介するのは、宇宙飛行士の“通勤”を変えたこの計画です。
CCP(Commercial Crew Program)では、宇宙船の開発と運用を民間に委ねました。

かつてNASAは、自前でスペースシャトルを保有・運用していました。
しかし今では、「輸送サービス」を購入する立場に変わったのです。

🚀スペースXのクルードラゴン:すでに定期便に!

このプログラムを牽引しているのが、スペースX社のクルードラゴンです。

2020年に有人飛行を成功させて以降、すでに10便以上を打ち上げ、民間人の搭乗実績も重ねています。

さらに2025年も、クルー11・クルー12の計画が進行中です。

出典:
Commercial Crew Program Overview、一次情報(NASA公式)

🛑一方、スターライナーは遅れ気味…

一方で、ボーイング社が開発したスターライナーは、やや難航しています。

無人試験飛行は完了したものの、肝心の有人飛行テストは延期が続き、初飛行は2025年末〜2026年初頭の見通しです。

とはいえ、NASAはこの2機体制を維持するため、開発支援を続けています。

出典:
NASA, Boeing Prepare for Starliner Testing、2025年3月27日、一次情報(NASA公式)


🛫 サブオービタル飛行もNASAが後押し

さらに、数分間だけ宇宙空間を体験する「サブオービタル飛行」も注目を集めています。

ブルーオリジンの「ニューシェパード」や、ヴァージン・ギャラクティックの「スペースシップII」などが有名です。

NASAはこれらの弾道飛行機を科学研究の場として活用し、民間企業に対して資金支援や技術協力を行っています。

出典:
NASA Flight Opportunities、一次情報(NASA公式)


🚨予算と人材流出:希望と現実のはざまで

NASA内部では、2025年夏時点で人員削減の懸念が高まっています。
最大2000人規模の退職・流出が検討されているとの報道も出ています。

この動きが進行中のプロジェクトに影響を与える可能性があります。
しかし、民間との協力により、全体の推進力は維持される見込みです。

出典:
NASA staff departures、2025年7月9日、二次情報(POLITICO)


✨ 夢の宇宙旅行、いよいよ現実に

このように、NASAが進める複数のプロジェクトは、単に探査を目的とした国家主導の取り組みにとどまりません。

NASAの複数の取り組みが、民間宇宙旅行の「舞台装置」となっていることが明らかです。

月周回、低軌道滞在、宇宙ホテル、そして数分間の宇宙体験――そのどれもが、NASAの後押しによって進展しています。

今後数年のうちに、スターシップが月を巡り、宇宙ホテルが軌道上に浮かぶ時代がやってくるでしょう。

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