COSMOLOGY / ビッグバン以前の謎
宇宙ができる前には、何があった?
光でさかのぼれるのは、宇宙が約38万年のころまで。その先は手がかりと仮説の世界です。どこまで分かっていて、どこから分からないのかを、確かさの色で見分けよう。
30秒でわかる答え
まだ分かっていません。光でさかのぼれるのは宇宙が約38万年のころまでで、それより前は元素の量や空のゆらぎなどの手がかりから推し量ります。最初の一瞬に宇宙が急膨張したとする「インフレーション」は有力な説明ですが、決め手はまだ見つかっていません。その手前に何があったのか、そもそも「前」があるのかは、いくつもの仮説が競っている段階です。
- 光で見える最古
- 約38万年後宇宙背景放射。光でさかのぼれる限界
- 有力な説明
- 急膨張インフレーション。決め手の原始重力波は未発見
- その前
- 仮説の段階「前」があるかも分かっていない
ILLUSTRATED JOURNEY
確かさの順に、過去へ
手がかりで分かること、有力な説明、まだ決め手のないこと、そして物理の地図の端。4枚の図でたどります。
元素が語る「最初の数分」
直接は見えない時代も、残された手がかりで調べられます。宇宙で最初にできた元素は、重さで水素が約4分の3、ヘリウムが約4分の1。最初の数分の計算と観測がよく合い、熱い初期宇宙の強い証拠になっています。
リチウムだけは、観測が計算の約3分の1しかなく、理由は研究中です。
離れた空が、同じ温度なのはなぜ?
空の正反対の方向から届く背景放射は、ほぼ同じ温度です。2か所は光でも行き来できないほど離れているのに、なぜそろっているのでしょう。インフレーションは「急膨張の前は、すぐ隣どうしでなじんでいた」と説明します。
温度の差は約10万分の1。インフレーションは、このわずかなゆらぎの性質もうまく説明します。
原始重力波の「うず」を探す
インフレーションが本当なら、空間そのものをゆらす波(原始重力波)が、背景放射の偏光に「うず巻き」の模様を残したはずです。宇宙と地上の望遠鏡が探していますが、まだ見つかっていません。日本の LiteBIRD も、2030年代の打ち上げを目指しています。
2014年に「発見」と発表された信号は、のちに天の川銀河のちりの影響と区別できないと分かりました。
物理の地図が途切れるところ
さかのぼるほど、いま見える範囲の宇宙は小さく、熱くなります。約10⁻⁴³秒(プランク時間)より前は、重力の理論とミクロの理論を同時に使う必要がありますが、両方をまとめた理論はまだ完成していません。「前」があるのかどうかも、この先の問題です。
この先についての仮説は、このあとの体験で比べられます。
TOUCH AND DISCOVER
時間をさかのぼって、どこまで分かっているかを見る
スライダーで過去へさかのぼると、帯の色(確かさ)が変わります。いちばん奥の「?」には、仮説を入れて比べられます。
TIME MACHINE · さかのぼる時間 いま
- その前:?(時刻ゼロがあるかも不明)
- プランク時間:約10⁻⁴³秒
- インフレーション(急膨張):10⁻³⁶秒前後?(模型しだい)
- 加速器で確かめられる高温:約1兆分の1秒(10⁻¹²秒)
- 陽子や中性子ができる:約100万分の1秒(10⁻⁶秒)
- ニュートリノが自由に飛び始める:約1秒
- 軽い元素の核ができる:最初の数分
- いちばん古い光:約38万年後
- 最初の星や銀河:数億年後
- いま:約138億年
- いまの正直な答え:分からない
- 縮んでから跳ね返った(バウンス)
- 時間に始まりがある(無境界・無からの誕生)
- 永遠に続くインフレーションの一部(泡宇宙)
- 前の宇宙の終わりから(共形サイクリック宇宙)
目安の時刻約138億年
確かさ見えている光で直接観測している
どうして分かる?背景放射や宇宙の膨張の観測から、宇宙の年齢を推定しています。
ここから、過去へさかのぼってみよう。
「ビッグバン」の意味で、インフレーションの位置が変わる
ボタンを押すと、図の帯にビッグバンの位置を表示します。
いちばん奥の「?」に入れてみる考え
いまの正直な答え:分からない
現在の答え
考え:どの仮説も、観測で選び分けられる段階には達していません。どれも違う可能性もあります。
確かめる手がかり:原始重力波(背景放射の「Bモード」)と、空のゆらぎの精密な観測が、選び分けの手がかりになります。
提案:—
LEARN AT YOUR LEVEL
宇宙のふしぎを、もう少し。
入門から少し専門的な話題まで。4つの段階で、知っておきたいポイントを短く紹介します。
「前」があるかも、まだ分からない
宇宙の始まりについて、確かなことはまだ分かっていません。
- 光で見えるのは、宇宙が約38万年のころから。
- その前の時代は、元素の量などの手がかりで調べている。
- いちばん最初については、いくつもの仮説がある段階。
見えない時代を、手がかりで調べる
直接見えない時代も、残された手がかりから推し量れます。
- 宇宙にあるヘリウムの量は、最初の数分の計算とよく合う。
- 背景放射の細かい模様には、もっと前の時代の情報も残っている。
- 加速器で確かめた物理は、約1兆分の1秒のころまでさかのぼって使える。
インフレーションは有力だが、確定ではない
最初の一瞬の急膨張は、多くの観測をうまく説明します。
- 宇宙が平らに近いことや、離れた方向の温度がそろっていることを説明する。
- 空のゆらぎが、大きさによらずほぼ同じ強さで、ごくわずかに傾いている性質は、予言とよく合う。
- 決め手の原始重力波は見つかっておらず、何が急膨張を起こしたのかも分かっていない。
- 「ビッグバン」を熱い宇宙の始まりの意味で使うと、インフレーションはビッグバンの「前」になる。
専門時刻ゼロ、量子重力、そして仮説たち
時刻ゼロの一点(特異点)は、一般相対論を過去へのばした計算の結果で、観測したものではありません。
- プランク時間(約10⁻⁴³秒)より前を扱うには、量子重力の理論が要る。候補はあるが、確立したものはない。
- 平均して膨張し続ける宇宙は、過去へ無限にはさかのぼれない(ボード・グース・ビレンキンの定理、2003年)。インフレーションの手前にも説明が要る。
- 無境界仮説(ハートルとホーキング)などの量子宇宙論は、数学的な扱いも含めて議論が続いている。
- 跳ね返り(バウンス)模型の多くは原始重力波が非常に弱いと予言する。原始重力波が見つかるかどうかは、仮説を選び分ける手がかりになる。
- インフレーションは1980年前後に、スタロビンスキー、佐藤勝彦、グースらがほぼ同じ時期に提案した(佐藤の呼び名は「指数関数的膨張」)。
2026年10月17日時点の観測値:背景放射の総合解析(2025年末)で、原始重力波の強さ r < 0.034(95%)。ゆらぎの傾き n_s は約0.968(背景放射のみ)〜約0.973(宇宙の大規模構造のデータを加えた場合)。JAXA の LiteBIRD は2036年度の打ち上げを目指している。
1 QUESTION CHECK
図のあとに、1問だけ
インフレーション(最初の一瞬の急膨張)の、いまの状況として正しいものは?
答えを1つ選んでください。
COMMON QUESTIONS
よくある誤解
ビッグバンの前は「無」だった?
「前」がないって、どういうこと?
インフレーションは証明された?
原始重力波は2014年に見つかったのでは?
ブラックホールの中で宇宙が生まれた説は本当?
科学的な前提と出典
時刻ゼロの一点は計算を過去へのばした結果で、観測したものではありません。インフレーションは有力な説明ですが未確定で、その前についての考えはすべて仮説です。年ごとに変わる観測値は、専門の段の注記にだけ日付つきで記しています。図の時間の目盛りは対数で、仮説の図は考え方のたとえです。
資料確認日:2026-10-17
- JAXA 宇宙科学研究所:LiteBIRD ↗
- JST サイエンスポータル:佐藤勝彦さんインタビュー(2014) ↗
- NASA:WMAP Overview ↗
- ESA:Planck – gravitational waves remain elusive(2015) ↗
- Planck 2018 results X:Constraints on inflation ↗
- Particle Data Group 2025:Big-Bang Nucleosynthesis ↗
- Inflation at the End of 2025(r と n_s の制限) ↗
- Borde, Guth & Vilenkin 2003 ↗
- Feldbrugge, Lehners & Turok 2017:No smooth beginning for spacetime ↗
- Ashtekar & Singh 2011:Loop quantum cosmology ↗
- Feeney ほか 2011:First observational tests of eternal inflation ↗
- Jow & Scott 2020:Re-evaluating evidence for Hawking points ↗
- University of Portsmouth(2025):Black Hole Universe ↗
